コーヒー業界でTDSや収率という言葉をよく聞くようになりました。
この単語は科学っぽくやってる人がよく使ってる印象です。
中途半端な科学は非科学より迷惑になるので、しっかり理解して使いましょう。
TDSとは
TDSとは、Total Dissolved Solids(総溶解固形物)の略で、水(純水)に含まれる無機塩類と水に溶解する有機物の濃度をいいます。
単位はppmもしくは%が用いられます。
1000gの液体の中に1g溶解していた場合、TDSは1000ppm、もしくは0.1%です。
コーヒーにおけるTDS
普段通りコーヒーを抽出し、TDSが1.3%だった場合、液体中のコーヒーの成分が1.3%溶けているわけではありません。
TDSは純粋中に溶けている物質の濃度なので、純水で抽出したのでなければ、コーヒー以外の成分も含まれてしまいます。
抽出に用いるような水であればそれほど値に影響しませんが、「TDS」という表現を使うのであれば、正しく理解することが必要です。
また、TDSでは水に溶解した物質を計測するため、不純物や油分があると計測できません。
目の細かいフィルターを通して使用してください。値を安定させるためには、ペーパーフィルターでは目の細かさは不十分です。VSTのシリンジフィルターもあるのでそれを使用するといいでしょう。
特にエスプレッソのTDSを計測する場合、クレマが混ざると正しく計測できませんので、専用のフィルターを通す、クレマより下からサンプルを取るなど注意しましょう。
また、温度変化によっても値が変わるため、温度を一定にした方が良いでしょう。
(VSTは15〜40℃、Atagoは10〜100℃まで対応、おそらく補正しています。)
ここら辺を適当にする人に科学はできません。
TDS計測
TDSを計測する際、何をどう計測しているのか、ぜひ理解しましょう。
計測器
コーヒーのTDSを計測するには、TDS計を用います。
コーヒー業界で用いられるTDS計は主にVST社のものとAtago社のものがあります。
値にばらつきがあるなど聞くことがありますが、多くの場合使い方が誤っているだけではないかと思います。
VSTとAtagoの比較については以下が参考になると思います。
TDS計の仕組み
TDS計では、光の屈折率を計測することでTDSを算出しています。
コーヒー用のTDS計において屈折率をどのように用いるかというと、以下のような式を用いることで”コーヒー成分”の濃度を算出します。(もっと細かい調整をしているかもしれませんが)
コーヒーの屈折率 = コーヒー特有の定数 ✖️ コーヒー成分の濃度 + 水の屈折率
初めに水の屈折率を計測し、その後その水を用いて抽出したコーヒーの屈折率を計測することで、コーヒー成分の濃度が算出できます。
この際、最初に計測する水に純水を用いた場合、算出された濃度をTDSと呼びます。
屈折率を用いるTDS計では、対象の成分しか存在しない場合の濃度しか算出できません。
そのため、対象の異なるコーヒー用のTDS計とそれ以外のTDS計では値が異なります。
TDS計、糖度計(Brix計)、屈折計
屈折率を用いるTDS計や糖度計は基本的に同じ仕組みです。
糖度計はショ糖の量を計測しようとします。
例えば、果汁の糖度を測定する場合、以下のような式を用います。
果汁の屈折率 = ショ糖固有の定数 ✖️ ショ糖の濃度 + 水の屈折率
先ほど示した式とほぼ同じですよね。
実は、コーヒー特有の定数とショ糖固有の定数を換算することで、糖度計でもコーヒーのTDSを計測できるんです。
問題は”コーヒー特有の定数とは何か”です。
これはコーヒーを用いて計測するのですが、どんなコーヒーを用いたかによって値が変わります。
コーヒー用のTDS計でも会社によって変わってくる恐れがあるので、屈折計を用いてTDSを算出するのは理想的ではないと言えます。
BrixからTDSへの変換
Brixに用いられる定数の方が安定していますので、Brixを測定した方が再現性のあるTDSを求められます。
Atago社製のコーヒー用TDS計の値とBrix計の値の変換について実験してくれている方がいます。
この結果をもとに、最近では以下のような式を用いて計算されることが多いです。
Brix(%) ✖️ 0.85 = TDS(%)
コーヒー用のTDS計が高いのは、複雑に計算しているからではなく、同じ仕組みにもかかわらず、コーヒーの成分について研究して、新たに(おそらく糖度計より需要の少ない)製品を作っているからであると考えるのが妥当です。専用品は便利なのでとてもいいと思います。
この研究は本当に企業の努力の結晶だと思います。
しかし、この値はコーヒーにもよるので、微妙なところ。
ここさえしっかりなっていればぜひお金を払いたいです。
現状だとBrixの方が信頼できますし、Brix計、安いですよ。
で、色々Brix計見てたんですけど、分解能とか対応温度とか考えるとAtagoのコーヒー用でいいなって思いました(笑)。
高いから文句言おうと思ったのにそうでもなかったですごめんなさい。Atagoおすすめです。
収率とは
コーヒーで用いる収率とは、原料と得られた生成物の重量比率を用いる重量収率です。
コーヒー業界では、コーヒー豆と抽出したコーヒーの水溶性成分の重量比率を収率、またはEY(Extraction Yield)と呼びます。
収率計算
収率計算にTDSを使うな!
TDS計を抽出に使う水でキャリブレーションし、コーヒーをTDS計で測定することで、抽出したコーヒーの水溶性成分の割合を測定できます。
(厳密には”コーヒー特有の定数”は抽出に用いた水の成分も考慮されているため値が異なり、正しい使用方法ではない)
この値を用いて、収率は以下のように求めることができます。
収率(%) = 抽出したコーヒーの水溶性成分(g) / 使用したコーヒー豆(g) ✖️ 100
ここの計算にTDSを使うとおかしなことが起きます。
以下のような式で収率っぽいものを求めているのをよく見かけます。
収率っぽいもの(%) = TDS(%) ✖️ 抽出したコーヒー(g) / 使用したコーヒー豆(g)
おそらくやらないと思いますが、塩分濃度1.0%の味噌汁でコーヒーを抽出する場合を考えます。
コーヒー豆10gを眺めながら味噌汁200gをお碗に注ぐと、、TDS1.0%のコーヒー200gの出来上がりです。
これで、収率っぽいもの20%のコーヒーが出来上がりました!
コーヒーの成分抽出してないのにおかしいですよね?
TDSで収率を計算するっていうのは、抽出に使った水のTDSを無視したやり方なんです。
どうしてもTDSを使って収率を計算したいのであれば、純粋でキャリブレーションしたTDS計でコーヒー抽出に使用する水を測定し(この値は水のTDSではありません)、
TDS ≒ コーヒーの成分の濃度
であることを示しましょう。(わざわざTDSを計測するメリットは感じませんが)
TDSと収率の使い方
TDSの使い方
TDSは、水にどれだけの成分が溶けているかを示します。
水の硬度なども含めてどれだけ成分が溶けているかを知りたいのであれば、TDSを使用してもいいでしょう。
SCAのCoffee Standardsでは、TDS1.15〜1.35%、収率18〜22%をGolden Cup Standardとしています。
この値を目安とするのであれば、TDSを用いるのが適切です。
収率の使い方
収率はコーヒー豆からどれだけの割合成分を引き出せたかを示します。
この値は、コーヒー豆にお湯をかければかけるほど高くなっていきます。
味の指標として使うのであれば、必ずTDSやコーヒーの成分の濃度とセットで使いましょう。
最後に
TDS計ちゃんと使えてますか?コーヒー用のTDS計ってどんなコーヒー用ですか?TDSって使いどころあるんですか?って話でした。
最初にキャリブレーションする際、
純水を使えば「TDS」、
抽出に使う水を使えば「コーヒーの成分の濃度」が計測できます。
おそらくTDSを使う場面はないので、抽出に使う水でキャリブレーションしましょう。
器具も言葉も正しく使っていきましょう。